HIOSユーザー訪問企画
Vol.8
RICOH

人が主役の現場を支える
『DM推進』高性能電動ドライバー

リコーグループにおける基幹工場のひとつ、リコーインダストリー東北事業所。商用プリンターを生産する同社の製造現場には、社員以外に派遣・請負パートナー等が生産に従事している。そうした現場における作業の平準化を目指し、同社ではデジタルマニュファクチャリング(DM)を推進しているが、その一助となっているのがハイオスの電動ドライバー「熟練工」シリーズだ。人が主役の現場を支えるDM推進の取り組みと、その中核を担うツールの活用について、工場を取材した。

リコーインダストリー
東北事業所

働きやすさと生産性を追求

リコーインダストリー東北事業所は1967年に東北リコーとして設立。2013年にリコーグループ各社が持つ生産機能を集約しリコーインダストリーとして再編された以降は、商用プリンター、キーパーツなどの生産を手掛けている。
JR東北本線と阿武隈川支流の白石川を臨む広大な敷地内には屋外無人搬送車やローカル5G、といった最先端の設備が揃うなど、リコーグループにおける基幹工場のひとつとして、積極的な工場マネジメントを実践している。その根底にあるのが「生産のリコーウェイ」だ。これはKAIZENやイノベーション、チームワーク、QCD、デジタル技術活用、サステナビリティ、就労環境の充実など12の項目に沿った生産活動を行っている。
特筆すべきは女性目線での5S活動や働きやすさ向上への取り組み、定期的に事例発表会を開催し学びの場を設ける取り組みなど、事業所全体で自律的なKAIZEN活動に取り組んでいる点だ。それは効率化のみならず働き方改革にも繋がり、企業と働き手双方にメリットを生み出している。これらのデジタルマニュファクチャリングの推進と現場目線での改革を掛け合わせた取り組みが評価され、2024年には一般社団法人日本能率協会が主催する2024 GOOD FACTORY賞「ファクトリーマネジメント賞」を受賞している。

デジタルの力で多様な人材へ対応

Chapter01
リコーインダストリー東北事業所は、企業や商業用の印刷物を制作する大型プリンター、いわゆるプロダクションプリンターの製造拠点。一般のプリンターでは印刷できない特殊な用紙にも対応し、高速で高精度な印刷が可能な同製品の生産は、複雑かつ繊細な工程が多分に含まれるため、自動化が難しく、組み付け作業の多くは人手に頼らなければならない。
その作業には、派遣や請負といった社員以外の働き手も加わってくる。リコーグループ独自のモノづくりを理解・実践しているプロパーの社員とは違い、様々なバックグラウンドや価値観を持つ作業者すべてに、リコーが求める高いクオリティの作業を行ってもらうのは至難のワザだ。
それをデジタルのチカラで解決に導いたのが、同社・齋藤大樹室長をはじめとするプリンタ生産事業部生産技術センター技術革新室のメンバー。東北事業所のDM化において主導的な役割を果たした齋藤氏は、製品作りに最適な工程をデジタルで可視化し、マニュアル化することで作業者の練度を問わない品質の安定を目指した。
「品質が確保された製品を届けるためには、生産現場における組立品質の安定化が必須です。そのためには、まず工程をデジタルで可視化する必要がありました。特に組み付け工程のなかでも作業工数が多く、締結本数やトルク管理など不良が生じやすいねじ締め作業のデジタル化は急務でした」
そこで選ばれたのが、発売間もないハイオスのブラシレス電動ドライバー「熟練工」シリーズだった。「熟練工」はパルスシステムを内蔵しており、ねじ締め開始から着座までのモーターの回転パルス数やトルクをカウント。これにより「ねじがしっかり締まっていない」「異なるサイズのネジが取り付けられている」などといったねじ締めトラブルをリアルタイムでの検知を可能にしている。
「当時、様々な電動ドライバーがありましたが、当社が目指すデジタルマニュファクチャリングが求める性能、仕様のものはなかなかありませんでした。そんな中で出会ったのがハイオスの熟練工でした」(齋藤氏)
ハイオスが熟練工発売に当たって付けたキャッチフレーズは「これで、誰でも熟練工に」。これは、リコーインダストリー東北事業所が目指す「多様な人材による作業の平準化」にピタリと合致する。そして、「ねじ締め作業の高度化・デジタル化」は、リコーインダストリーの生産技術メンバーによって、さらなる進化を遂げる。
人手に頼らざるを得ない工程が多い

品質保証と作業負荷の低減を両立

Chapter02
齋藤氏はまず、リコー独自の考え方(生産のリコーウェイ)を元に、デジタルツールの導入による作業支援や作業習熟期間の短縮化を目指した。そして自前で開発したのが、「作業支援ナビシステム」と「作業プロセス保証システム」だ。
作業支援ナビシステムは主に作業習熟期間の短縮や作業者の負担軽減をはかることが目的で、持ち工数が多く、難易度が高い工程に使用されている。
パソコンに熟練工をはじめとした各種作業デバイスを接続。すべての人が関わる作業に対し、データベースに登録した作業順序をもとに文字・図示・音声情報で作業者へ指示を行なう。作業者は画面を見れば作業の内容や注意点、検査項目などが把握できる。さらに作業者の作業実績はログとして取得し、リアルタイムにクラウドへアップロード。これにより、作業改善のポテンシャルが明確化され短納期での最適化が図れるという。
作業プロセス保証システムは、生産量が多く、作業習熟に時間が掛からない工程に用いられ、安価で拡張性の高いシングルボードコンピュータを軸とした制御部に各種デバイスを接続。スタンドアロンで使用している。
こちらは不良流出の可能性がある作業に対し、設定ファイルに登録した作業順序を文字、音声情報で作業者に伝達する。その際の指示内容は必要最小限のもので、作業のキーワードのみを簡潔に伝える仕様になっている。こちらも作業実績はクラウドへとアップロードされる。
「いずれのシステムもセンサ検知やデバイスからの信号受信により、作業が正常に完了したかを判定し、作業を飛ばすなどの異常があった場合は即座にアラートで知らせ、次の作業に進めません。その際に熟練工が知らせてくれる詳細なねじ締めデータが非常に役に立っています」(齋藤氏)
実際の生産現場では、モニターを活用しながら各作業者が正確かつよどみなく作業を行っている。ねじ締め作業では、ねじの種類や締め付けトルクによって色分けされた複数の熟練工を活用しながら、てきぱきと部品を作り上げていく。
実際に組み付け作業に従事している女性作業者に話を聞いてみると、「このドライバー(熟練工)は握りやすく、握力もそれほど必要としないのですごく使いやすい。作業支援ナビシステムも分かりやすいので、以前に別の現場で電動ドライバーを使う作業をした時に比べて、精神的にも肉体的にも疲労感が少ないです」と笑顔を見せる。
東北事業所はリコーグループのマザー工場としての役割も担っている。同工場での取り組みは、世界各地のリコーグループ拠点へとフィードバックされる。ハイオスの「熟練工シリーズ」も東北事業所への採用(200台超)を皮切りに国内外のリコーグループ拠点へ計2600台以上が採用されており、各地での「人が携わる製造現場」の生産性向上に貢献している。
プリンタ生産事業部生産技術センター技術革新室
齋藤 大樹 室長
作業別に色分けされた「熟練工」

ねじを使う製品へのこだわり

Chapter03
同社の手掛けるプロダクションプリンターには数百本単位のねじが使われている。昨今の生産現場において、工程によってはカシメや溶接など、機械的な接合方法のほうが自動化やコストダウンに繋がるケースも少なくない。だが、同社ではあえてねじによる製品づくりにこだわりを見せる。同社プリンタ生産事業部第一ものづくりセンター 第一生産室生産四グループの山口康好グループリーダーが話す。
「当社は製品を作って売る、だけではなくメンテナンスも重視しています。弊社のプリンターを導入いただいたお客様先でより長く活躍してもらうためには、保守と整備が必要です。その際に、ねじを使用していれば分解もしやすく、パーツ交換も容易になります。また、作り手の責任として、役目を終えた機械のリサイクル、リユースも視野に入れております。サステナブルな部材であるねじは、これまでもこれからも、当社のモノづくりには欠かせないと考えています」
日本企業として初めてRE100(企業が自社の事業活動で消費するエネルギーを100%再生エネルギーに置き換えることを宣言する国際イニシアチブ)に参画するなど、高い環境意識を持つリコーグループ。ハイオスも創業以来、人と環境に優しい製品作りを大切にし、2023年には「製品ライフサイクル全体の環境負荷削減に貢献している」として、エコプロアワード「奨励賞」を受賞するなど、未来志向の製品開発を続けている。
長らく「産業界のコメ」と言われてきたねじ。その役割は、ただ「消費」するだけに留まらない、製品の永続的な活用に貢献するキーパーツへと変化を遂げている。
プリンタ生産事業部第一ものづくりセンター
第一生産室生産四グループ 山口 康好 グループリーダー
「熟練工」は女性作業者も「使いやすい」と太鼓判を押す